第拾壱話 今の気持ち・今とこれから
東京での話し合いを終え、博多に戻ってきた姫。
博多に戻ってからの日々について、姫はこう語る。

「博多に戻ってから、それこそ日々考える毎日だった。渋谷さん達と会ったことで、
より今後の自分のことが現実として押し寄せてきたよね。それと同時に、
ある種の最終的な答えも出さなければいけないんだということも。

それは、可能性として、復帰するということと同時に、引退する、ということも
同じ比重としてあった。自分が考えてきたそれまでの想いと、歩んできた道のりと、
全部をひっくるめて、あらゆることに対する決着をつけないといけないという思いでね。
そしてそれは、やっぱり、渋谷さん達に会ったことでより明確になった所もあると思う」

そんな日々のことだった。

「東京から帰ってきた1週間後あたりに、渋谷さんから私宛に1通のメールが届いたんだ。
先日はありがとうございましたという言葉と共に、メールには1通の企画書が添付されていて。
開いて見てみたら、そのファイルは、しいなえいひの企画書だったのね。

ファイルのタイトルは、「しいなえいひプロジェクト」
あの日東京で私との話し合いを終えた渋谷さんが、スタッフと一緒に会議を開いて、
しいなえいひともし一緒に仕事が出来ることになるとしたら、
私たちはこうしていきたいという、思いの詰まった企画書だった。

内容は、とにかく、素晴らしかったよ。しいなえいひという女優として、
アーティストとして、今後こういった人と組ませたい、こんな仕事をさせたい、
補完計画での活動についても、ベイビーズとの交流のことについても、
同じ目線で共に考え、書いてあって。

まだ所属するかどうかも、決まってない私宛にだよ。それを見て、本当に驚いたし、
心から感激した。だって、それを読めばどれだけ渋谷さんたちが、
本気でしいなえいひのことを考えてくれてるかが分かったから。」

そしてその直後、姫は西村さんから、電話でこう言われたそうだ。

「西村さんがわたしに、姫、渋谷さんたちは本気だよ、って言ったの。
企画書、見ただろ?って。聞けば西村さんのところにも、その企画書は行ってたみたいで。

渋谷さんが私に企画書を送る前、渋谷さんたちは西村さんにも会って、
話をしてくれていたことが分かった。私が初めて事務所に行った時と同じく、
西村さんもスタッフが勢ぞろいした中で、渋谷さんからわたしと仕事がしたいと
思っていること、作成した企画書が、これでいいかどうかということも含め、
西村さんに会って真剣に相談してくれていたんだね。

その電話の中で、私は西村さんに言ったのね。
「すごくありがたいけど、どうしてかなって思う。どうして渋谷さんは、
あんなにしいなえいひに対して一生懸命になってくれるんだろう。まだ会って間もないのに」
って。そしたら、西村さんが言ったの。
「それは、俺の口から言うよりも、渋谷さんと話したほうがいいと思う。けど、
ひとつだけ言えるのは渋谷さんが姫のことを本当に好きだからです」って。

なんか、その言葉を聞いて、全部わかった気がした。
だからこそ、次に渋谷さんたちに会うまでに、自分の心の準備と、
様々なことにおける覚悟を決めておかなければいけないなってことも同時に思った。
その時の状況は、仕事のこともそうだけど、あらゆる面において、
まだ整理がついてない状況だったから、まずはそれを全部ひとつひとつクリアにして、
1日も早く次の話し合いにおける準備を、ここから本気で始めていこうって
いう覚悟が決まったというか。」

それから、今日に至るまで、やりとりを重ね、話し合いは幾度となく行われた。
決断に至るまで、博多で、熊本で、渋谷さんたちは何度も姫のもとに足を運んでくれた。

博多に訪れてくれた際には、石井監督も同席し、今後の仕事についての展望を話し合った。
どんな話し合いだったのかと、その詳細について尋ねると、

「それはわたしと渋谷さんたちの秘密かな。
仕事のことも含め、それまでの様々な出来事や思いについても、すべて正直に話したからね。
そこには仕事に直接つながる内容もあれば、そうでないこともあった。
けれど、私にとってはすべて繋がっていることで、一緒に仕事をする前に、
きちんと話しておきたいと思う大切なことだったから。

本気で思いをぶつけてくれた人に対して、
私も、後出しじゃんけんにならないように、一緒に仕事を始める前に出来る限り
話せることは話しておきたかったから。
時には気持ちが入るあまりに、うまく言葉に出来ないこともあったけど、
渋谷さん達は、すべての話をちゃんと私の目を見て聞いてくれた。
そしてその上で、一緒に頑張りましょうと言ってくれたんだ。

そして何より、渋谷さん達が、私が大切だと思っているモノを、
大切にしてくれたことがうれしかった。しいなえいひの創作に対する気持ち、
それまでのわたしと、今の私自身を支えてくれている人々に対して、
誠実に向かい合い、一緒に考えてくれたことが。」

そして2014年、しいなえいひは、渋谷京子社長率いる「ブルーベアハウス」という
新たなファミリーと一緒に歩んでいくことを決断した。

その決断に至った理由は、他でもない、

「渋谷京子という人に出会ったからだろうね。そして、西村さんと石井さんが居てくれたから。
そうでなければ、もう一度こうして、女優として生きていくという決断には至らなかったと思う。

これでようやく、まっすぐ前を向いて歩いていく時が来たんだなという気はする。
今までの長い道のりがあって、ようやくここにたどり着いたというか。
これだけ一回りも二回りもして、今までバリバリの獣道を歩いてきたから、
今更もう別に、怖いものなんて無いしね(笑)

そして今ここでこうして、今日に至るまで、自分の過去をひとつひとつ振り返り、
見つめ直したから、これでもう、過去について話すのは、最後にしたい。
これはある種の、自分の今までとこれからに対するけじめのようなもの。
これからは、今と、未来のことだけを見つめていく。
その意味は、過去を忘れた自分という意味ではなく、
過去を補完したしいなえいひとして、という意味で。」

そして最後に、姫のこれからに対する想いについて聞いてみた。
今の姫の心には、どんな思いがあるのだろうか。

「これからの、しいなえいひが歩むべき道。それがどんな道のりなのか、
たどり着くべき場所は何処なのか、それを言葉にするのは難しい。
言葉は想いを伝える手段ではあるけれど、言葉では伝えられないこともあるからね。

けれど一つだけ言えるとしたら、今までも、これからも、変わらずに
「今」を見つめて生きていくということかな。
その「今」という言葉の中には、時間としての「今」という概念だけでなく、
今までと、今の私を支えてくれている人々の想いも共に存在してる。

そしてその「今」を生き続けた先にある「未来」を、ちゃんと受け止められる自分で居たい。
これからやっていきたいことは、いっぱいある。その一つ一つを実現するためには、
まずは「今」を見つめ一歩ずつ前進していくこと。
そして少しずつ機動力が付いたら、徐々に高く飛んでいく感じでね。

時間はたくさんあるようで、そんなには無い。だから時には駆け抜けて、
飛び越えてもいかなければ。これからは勝負かけて行くよ。すべてを取り戻す勢いで行く。
もう一度こうしてわたしを舞台にあげてくれた渋谷さんたちに、いつか笑ってもらえるように、
わたしがこの場所に戻ってくることを、ずっと待っててくれたベイビーズに、
良かったねと言ってもらえるものをひとつでも多く残せるように、
しいなえいひの最後の旅に出るつもりで、これからは精一杯前を向いて、
気合入れて精進していきたいと思ってます」

姫の最後の旅は、今始まった。しいなえいひ補完計画の最終章の幕開けだ。
どうか姫の未来に、幸あれ!