第拾話 新たなる出会い
姫のもとに鳴った一本の電話。
電話の主は、姫にこう言った。

「しいなさん、はじめまして。でも、はじめましてって気がしないねっ、て。
それが渋谷さんだった。わたしも一応かしこまって挨拶をして。

西村さんから話を聞きましたってことを伝えて。電話口で渋谷さんは、
その時に思っている気持ちと、私に対する意思を、明確に示してくれた。
現時点での私の状況や経緯なども、すでにある程度理解してくれている上で、
話してくれているって感じだった。
だからわたしも、正直にその時考えていることを話し、
今後のことは、決まっていないことと、女優としての活動ということに関していうと、
今後どういった形でやっていくのか、区切りをつけるべきか、正直迷っているということも。

そしたら渋谷さんは、絶対にまだやれることはたくさんあります、
それを一緒に考えていきましょうって、迷いなく私に言ってくれたんだよね。
そして電話で話しているのではなく、一度会って話したいと言われて。
7月の終わりのほうだったんだけど、8月のお盆明けに、東京でお会いする運びになって」

そして8月の26日、東京の事務所で、姫と渋谷さんは会うことになった。

「当日、事務所を訪ねたら、渋谷さんをはじめすべてのスタッフがわたしを迎えてくれて。
事務所の応接室みたいなところで、みなさんとはじめましての挨拶をして。
そして、渋谷さんからの話があって、そこで、わたしも自分の思っていることを
出来る限り正直に話した。

話の内容は、自分がここ数年、残酷警察で女優復帰してから、歩んできた道のりの中で
感じていた気持ちと、現実に対する感想、今後もう一度復帰することがあったとして、
今まで考えていた理想のカタチを、今後の現実の中でビジネスとしてやっていく具体案が
本当に実現しうるのか、ということに対する自分自身の現時点での冷静な見解とか。

お話はとてもありがたいけれど、それに対してしいなえいひが結果として応えることが
できるのか、それ自体、言ってしまえば何も確証がないことでしょ?
けれども、だからと言って、今までやってきたことを、全部忘れて一から違う方法で
やり直すという方法は出来ないし考えていないってことも伝えた。

例えばしいなえいひがしいなえいひでなくなるようなことをしたら、
今まで積み重ねてきた道のりと、それを見守り、応援してくれた人々を
裏切ることになると思ったから。

それは、ここまでの道のりは、決して順風満帆ではなかったかもしれないけれど、
残酷警察で復帰してから今まで歩んできた活動は、例え日本での評価がどうでも、
自分と周りを信じて、精一杯誇りを持ってやってきたという思いがあったから。

けれどだからこそ、その思いや結果と、日本での活動における現実が、
結びつかないツライ状況も、今までの経験で痛いほど知っていた。だからこそ、
仕事に対する情熱や気持ちがどうでも、単純に、ビジネスという観念で考えたときに、
成立するかしないかで言えば、わからないですって答えることしかできなかったというか。」

「けれどそれは、悲観的になっていたとか、同情をひきたいとか思っていたわけではなく、
自分と一緒に仕事をしたいと言ってくれている人に対して、絵に描いた餅のように、
いいことばかり言うのは違うと思ったから。

たとえば渋谷さんが、しいなえいひのいい部分というか、
うまく行っている部分だけを見ていたとして、そこから楽観的な要素だけを見て、
わたしと一緒に仕事をしたいと思っていたとしたら、
もし今後一緒に仕事をしていくことになったとしても、何かつまずいた時、
思っているよりも物事が現実としてうまく運ばなかった時に、こんなはずじゃなかったと、
がっかりさせるようなことになってしまうでしょ。

それは申し訳ないなと思ったし、そんなことになるくらいなら、
もうここで身を引いたほうがいいって思っていたというのが本音だった。
もちろん、話はそれだけではなく、前向きな要素として、
しいなえいひが今後やっていくべきことは客観的に見て、こういうことなのではないか、
とか、そういった側面での方法論としての話もしたけれど。

渋谷さんは、私の話を聞いて、それこそ速攻に全部その場で答えを返してきてくれたよね。
とにかく渋谷さんは、しいなえいひのことを、本当によく理解してくれていた。
それまでの活動の流れ、存在としての立ち位置、それこそモデルとして
デビューしてからのことや、今に至る国内外での活動の功績なども。

自分から敢えて今までの仕事について、語ることもなかったくらい。
理解した上で、今後のしいなえいひの未来について考え、
一緒に仕事をしたいと思ってくれているんだなって分かった。

気持ちの部分でももちろんそうだし、具体的な展開への方法論とかも、
すごく気持ちを込めて、理解して話してくれた感があって。
わたしが自分自身のこと(しいなえいひという女優についてのこと)を、
すごく冷静に分析してるその冷静さがすごいとも言ってた。

冷静すぎるのかもしれないですけどねと答えたら、渋谷さん達は笑ってたけど、
あの話し合いの中で、ちゃんと気持ちの部分で仕事してる人なんだってことは、
よく分かったよ。
話し合いの中で、その他のスタッフさんも同席して話をしてたんだけど、
渋谷さんと同じく、みんなすごく気持ちを持って話をしてくれているのがわかった。

当初の自分の中での予定では、まずは渋谷さんがどう考えているのか、って、
そのお話を聞きにいったという感じだったんだけど、実際はもっと内容の濃いものに
なってたよね。」

「話し合いを終えて、事務所を出たら、西村さんからすぐに連絡があって。
わたしが東京に出てくることも、西村さんは知っててくれたんだね。
今から会って話そうって、それで新橋で待ち合わせて、会うことになって。

その時に、ナコ(水井真希)も一緒に来てくれて。今日の話し合いのこと、
今の想いとか、三人で話しながら、食事してね。
西村さん達に会うのもひさしぶりだったから、嬉しかったし、なんというか、
西村さんはホントにしいなえいひの東京の父だなってそう思った」

次の日に博多に戻ることになっていた姫は、食事を終えてホテルに戻る際、
帰りの新橋の駅で、二人をそれぞれに抱きしめてこう言った。

「来てくれてありがとう。大好きな二人に会えてうれしかったよ。次に会う時まで
頑張るね。元気でいてね。また会おうね。」

そう言って改札に進む姫を、二人は見えなくなるまで手を振って見送ってくれたのだった。