傷ついた心を持った人は、傷ついた心を持った人に出会った時、
本当に優しく見つめることができるんですね。
それは自分の傷口をそっと撫でる気持ちなのかしら?

英姫がスタジオの外でしゃがみこんでいたその日。
カメラを持ったその先に、小さなたんぽぽが、
かすかに揺れているのをおもいだします。

キュッと膝をかかえこんだその姿は
小さな女の子が必死に泣くまいと涙をこらえているような、
それでいて、自分の世界を見つけた喜びでいっぱいの様子が、
全身に溢れていて、その光景は、今も時々、思い出します。

英姫のその声は、小さく、それでいて強い意志を持って、僕の心に響きます。
その美しい声は、これから起こるであろう世の中のあらゆる事に対して、
決別することを 宣言しているのです。

そして、漕ぎだした微かな形をしたその舟は、
やがて、はっきりと弧を描き、
その先々で、あらゆる人を巻き込みながら光となって進んでいき、
その残した軌跡は、消える前に、一瞬の痛みを伴って、
人々の心に残していくのです。


フォトグラファー NAOKI


face to face  http://www.facetoface.co.jp/
NAOKIさんは、わたしの恩師であり尊敬する芸術家だ。
日本はもちろん、NAOKIさんは海外でも、ELLEやVOGUEなどのファッション誌をはじめ、
様々な作品でその名をファッション界に知らしめたフォトグラファーだ。

NAOKIさんの写真の世界は、いつも本当に美しい。
表面をなぞっただけの、小奇麗なうつくしさとは違う、本当の美しさがいつもそこにある。
それはきっとNAOKIさん自身が、喜びと哀しみの光と影を知っているから。
真理を見つめ、本質を見極め、写し撮るココロを、持っているから。

NAOKIさんとのはじめての出会いは、わたしがまだ高校を卒業して間もない頃、
当時の人気雑誌であるSOーENという雑誌のシュートの時だった。
はじめて会ったNAOKIさんは黒き衣装に身を包み、
その鋭いまなざしで静かにあたしを見つめていた。
カメラ前に立ち、ポーズをとるあたしに、一言NAOKIさんはこう言った。

「シャッターを切れない。お前は、今何を考えてそこに立っているんだ」と。

あたしは言葉を失った。すべて見抜かれていると思った。

当時のあたしは鳴り物入りでファッション界に入り、
日々追いまくられるハードなスケジュールの中で、
ただただ、走り抜けるしかない日々を送っていた。
ありがたいことに、表面的には何一つ不自由なくモデルとして順風満帆だった頃のことだ。
けれどあたしの心の中は、とても空虚だった。
自分の立たされている場所、止まることのできない時代のうねりを
ちゃんと受け止めることもできないままに、
目の前にある日々の撮影に戸惑いながら必死にもがいていたころ。

その頃のあたしが求められていたのは、
「ただそこに立っていてくれればいい」という、ある意味、マスコット的な存在だった。
英姫が映っていればそれでいい。雑誌は売れるのだから、と。

その一見ありがたくも思えるちぐはぐな現実の中で、あたしはずっと戸惑いを感じていた。
このままではいけない。次なる自分の進むべき道を探さなくてはと。

NAOKIさんはあたしに言った。
「お前は自分が一番解っているんだろう。今のお前は素材だけで勝負している。させられている。
けれどそれだけじゃ駄目だ。お前はそんな奴じゃないはずだ。その奥にある魂を映すんだ。」と。

スタジオに大きく響くその声は、今もあたしの胸に鮮明に響く。
あの時あたしは、NAOKIさんに、自分の進むべき道を、教えてもらった。

その後あたしはNAOKIさんと共に、数え切れないほどのセッションを共にした。
数々の雑誌、広告、NAOKIさんと共に、光と影の向こう側を目指した。
時代はうねった。誰かの意思じゃなく、自分の意思で。
このシャッターの向こう側に、伝えるべき想いや、祈りが映りこむことを信じ。

NAOKIさんは、あたしの全てを、きっと知っている。
傷ついた心のカタチ、記憶のカケラ。願い、祈り、
喜びのカタチ、哀しみの色、わたしを形成する光と影を。

交わした言葉は、すべて作品の中にある。
想いを込めた瞬間を、しいなえいひの本質を、この世でたったひとり、
写し撮ることができる人、それがNAOKIさんだ。

わたしがモデルを休業し、自らの心を拾い上げる旅に出た時、
NAOKIさんはボロボロの葉っぱの船を必死で漕ぎながら、
しゃがみこんでいたあたしを知っている。

モデル英姫の恩師でもあり、椎名英姫の写真の師匠でもあるNAOKIさん。
あの時スタジオの外で、あたしが必死にシャッターを切っていた黄色いタンポポは、
椎名英姫写真展「No filter Only eyes」へと繋がっていった。

わたしがこの世界に入り、モデルから女優へと姿を変え、
作家として、ひとりの人間として、作品と向かい合うようになった今も、
彼はあたしの姿を今もまっすぐに見つめ、シャッターを切り続けてくれている。

しいなえいひ補完計画という場所で、NAOKIさんの写真を掲載している意味、
その紛れもないわたし自身の姿である、この補完計画というゼロ地点から、
あの日NAOKIさんとした約束を胸に、
あたしは今日も光と影の向こう側へ向かい、言の葉を紡ぎ続けるのだ。


しいなえいひ



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